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スケッチーズ 八瀬の石黒さん家から見た世界
SKETCHES
2025.6
尾崎織女さん(日本玩具博物館学芸員)と山名伸生さん(玩具蒐集家)の協力のもと、京都精華大学ギャラリーTerra-Sで行われた本展に玩具チームとして参加しました。
伏見人形は、日本中に存在する「土人形(郷土玩具)」のルーツと言われる存在です。江戸時代後期、伏見稲荷大社の参拝者が急増するなかで街道土産として隆盛を極め、当時は60軒近い窯元があったとされています。高級な御所人形などと比較すると、庶民的で安価に購入できたことが普及の大きな要因でした。
この伏見人形が全国へ広まった背景には、民衆のたくましい知恵がありました。各地に持ち帰られた人形を、土地の者が勝手に型取りして複製し、独自の土産物として売り始めたのです。持ち帰った人形を粘土で型取りして雌型を作り、そこに土を詰めて焼き上げ、胡粉を塗って元の柄をお手本に絵を描くという手法がとられました。1859年に発行された農書『公益国産考』においても、農閑期の副業としてこの勝手な複製が推奨されています。この「複製をさらに別の場所で型取りして複製する」という活動が伝言ゲームのように全国へ波及した結果、京都から離れるほど人形の輪郭は丸みを帯び、柄も抽象的に変化していくという興味深い現象が起きました。
こうした歴史的背景を踏まえ、陶芸家・石黒宗麿の若き日の姿を投影した「饅頭売り人形 石黒宗麿」という作品が製作されました。石黒氏がかつて饅頭を売って生計を立てていたというエピソードに着想を得て、伏見人形の代表的モチーフである「饅頭食い人形」を転用したものです。「饅頭食い」とは、両親のどちらが好きか問われた童子が、手に持った饅頭を割って「どちらが美味しいか」と問い返したという教訓話に基づいています。
制作においては、戦前期の饅頭食い人形をベースに土を貼り付けて原型とし、焼成して雌型を製作しました。その型に土を押し付けて成形し、素焼きした後に胡粉を塗り重ねました。仕上げの着彩では、石黒氏の庭から掘り出された陶片の模様や、彼の代表的なモチーフである柿の木の模様など、計4種類の着物柄が泥絵の具で描きました。本作は、伏見人形が持つ「型取りによる伝播」という文化を、個人の歴史と重ね合わせて現代に再現した土人形です。
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会場 京都精華大学ギャラリーTerra-S
会期 2025.06.27 - 2025.08.03
参加作家
陶芸チーム :木村隆(釉薬研究)、田中大輝(陶芸家)、中村裕太(美術家)|建築チーム:惠谷浩子(風景学)、諏佐遙也(模型製作)、本橋仁(建築史家)|庭景チーム:石川知海(御庭植治)、山本麻紀子(アーティスト)|集古チーム:菊地暁(民俗学)、松元悠(版画家・美術家)、麥生田兵吾(写真家)|玩具チーム:尾崎織女(日本玩具博物館学芸員)、軸原ヨウスケ(デザイナー・玩具工芸社)、長友真昭(玩具作家・玩具工芸社)、山名伸生(玩具蒐集家)
主催 京都精華大学
助成 公益財団法人三菱UFJ信託地域文化財団
協力 射水市新湊博物館、京都市左京区役所八瀬出張所、日本玩具博物館、路上観察学会40周年記念事業「路上観察よ いつまでも」
企画 京都精華大学伝統産業イノベーションセンター、京都精華大学ギャラリーTerra-S
マンガ 谷本研
テキスト 中村裕太
チラシデザイン 仲村健太郎(Studio Kentaro Nakamura)